消化吸収器官である腸ですが、肥満との関わりも非常に深いことが分かってきています。
今回は、肥満な人とそうではない人の違いを、腸内環境の観点から紹介します。
【おさらい】肥満とは
まずは肥満の定義を振り返りましょう。
国際的な基準でみる「肥満度」
肥満度は、国際的に使われている基準BMI(Body Mass Index)で判定されます。
BMI=体重(kg)×身長(m)2
標準とされるBMIは男女ともに22.0です。
BMI25.0以上は肥満、BMI35.0以上は高度肥満と定義されます。
BMI(kg/m2) | 判定 | WHO基準 |
<18.5 | 低体重 | Underweight |
18.5≦BMI<25.0 | 普通体重 | Normal range |
25.0≦BMI<30.0 |
肥満(1度) | Pre-obese |
30.0≦BMI<35.0 | 肥満(2度) | Obese class I |
35.0≦BMI<40 |
肥満(3度) | Obese class II |
40< | 肥満(4度) | Obese class III |
肥満度分類(日本肥満学会)
BMIは統計上、肥満との関連が強い糖尿病・高血圧・脂質異常症に最もかかりにくい値として基準が設けられています。
体重と身長を用いて導きだした数値にすぎません。
筋肉量の多い人か、脂肪の多い人か、さらに皮下脂肪が多いのか内臓脂肪が多いのか、などといった内部の状態を判断することができないのが特徴です。
生活習慣病のリスクになる「肥満」とは
生活習慣病との密接な関連が明らかになっているのは、「内臓脂肪型肥満」です。
腹腔内に脂肪が過剰に蓄積しているのが特徴です。
内臓脂肪面積が100㎝2以上になると生活習慣病を合併しやすいため、内臓脂肪型肥満と判断されます。
内臓脂肪面積はCT検査で判定しますが、気軽に受けられないことから、ウエスト周径を「腹囲」として計測判定するのが一般的です。
腹囲は男性85㎝、女性90㎝です。
肥満と腸の関係
腸といえば、消化吸収器官と認識している人は多いと思いますが、現在は免疫機能としても働きも注目度が上がっています。
腸の免疫機能の肝は「腸内フローラ」
ヒトの身体は約40兆個の細胞からできていますが、腸内細菌はそれよりも多い100兆個存在し、腸内フローラを形成しています。
腸内フローラは、善玉菌・悪玉菌・日和見菌に分けられ、腸内での勢力争いや免疫細胞を鍛える働きをしています。
つまり腸内フローラが腸での免疫機能をサポートしている重要な役割を果たしています。
肥満の原因は腸内フローラにある!?
腸内細菌は、腸やその他の内臓器官の細胞との間で物質や情報の受け渡しをしています。(クロストーク)
近年、この「クロストーク」が円滑に進行しないことで、さまざまな病気の原因を作り出していると言われています。
米国オレゴン州立大学の研究チームは、「クロストーク」が免疫機能異常である自己免疫疾患だけでなく、うつ病や肥満もこの失敗に起因していると発表をしています。※1
国内の研究においても腸と肥満の研究が進んでいます。
ある研究グループの調査は、内臓脂肪面積と腸内細菌の一種である「ファーミキューテス門(以後Fとします)」と「バクテロイデス門(以後Vとします)」の数との関連を発見しています。
(門とは、生物分類するときのグループ単位のことです。)
その調査によると、
- 男性では、内臓脂肪面積が小さいほどFが多い傾向、Vが少ない。
- 女性では、内臓脂肪面積が小さいほどFが少なく、Vが多い。
という結果です。
他にも、性別にかかわらず内臓脂肪面積と関係している腸内細菌の存在も確認されました。
腸内に多く存在する腸内細菌の1つである「ブラウティア菌」です。
内臓脂肪の量が多い人ほど「ブラウティア菌」が少なくなるという研究結果や、肝硬変、糖尿病、大腸がん、関節リウマチの患者さんの腸内で、「ブラウティア菌」が少なくなったことも報告されています。※2
ビフィズス菌や乳酸菌と同様、酪酸や酢酸をつくりだす善玉菌の働きをします。
腸内を酸性に維持することで悪玉菌の働きを抑え、腸が活発に活動できる環境をつくってくれます。
上記のように、腸内細菌の量によって腸内環境が大きく変わり、疾病との関連が明らかになってきています。
※1 腸内細菌がわたしたちの健康を左右する サン・クロレラ研究サイト
まとめ
腸の働きは消化吸収にとどまらず、免疫機能としての役割も担っています。
腸での免疫機能のサポート役としては腸内フローラの状態が関係していることも国内外の研究で明らかになってきています。
「腸内細菌バランス改善」が肥満を始めとした様々な疾患のアプローチの一つになることが期待されています。